はじめに

第5世代 AMD EPYC プロセッサ(開発コード名:Turin)の登場により、個人のワークステーション環境でも圧倒的なメモリ帯域と計算資源を確保できる時代が来た。特に EPYC 9175F は、巨大な L3 キャッシュと高クロックを両立しており、LLM の推論環境、とりわけ 1 兆パラメータ級の MoE モデルを CPU で動かすための理想的な選択肢となっている。

今回は、この 9175F を搭載した HPCT(株式会社高速計算機)製のワークステーション「HPCT WCE51-GP」の具体的な構成について、検討した内容をまとめる。

背景と動機:自作か、システムか

当初は ASRock Rack の GENOAD12M3-2Q のような EPYC 9005 対応マザーボード単体での調達も検討していた。しかし、EPYC 9005 シリーズは TDP が 300W を超え、12 チャネルの DDR5 メモリをフルスタックで搭載した場合の排熱や電力管理は非常にシビアだ。

見積もり段階では、CPU 単体で約 52 万円、メモリ(32GB x 12)だけで約 74 万円という高額な投資になることが分かっていた。これだけの高額コンポーネントを安定稼働させるには、実績のあるシャーシと電源、そして信頼性の高い冷却システムが統合されたワークステーション・パッケージを選択する方が合理的であると判断した。

そこで白羽の矢を立てたのが、Supermicro のプラットフォームをベースとした HPCT WCE51-GP だ。

HPCT WCE51-GP の技術仕様

本機は、EPYC 1 ソケット構成ながら、サーバーグレードの拡張性と信頼性をフルタワー筐体に収めている。

CPU とメモリ

心臓部には AMD EPYC 9175F を採用する。メモリは 768GB(DDR5-6400 ECC RDIMM)を搭載。12 個のスロットを全て埋めることで、Turin 世代の 12 チャネルメモリ帯域をフルに引き出す。これにより、メモリ帯域がボトルネックとなりやすい LLM デコード処理の高速化を狙う。

拡張スロットと I/O

PCIe 5.0 スロットを豊富に備えており、将来的な GPU 増設にも対応可能だ。

  • PCIe 5.0 x16 スロット x3
  • PCIe 5.0 x8 スロット x2

ストレージに関しては、SATA3 x8 に加え、最新の MCIO インターフェース(PCIe 5.0 x8)を 3 ポート備えており、NVMe SSD の柔軟な構成が可能だ。M.2 スロットも 22110 サイズまで対応しており、エンタープライズ向けの PLP(電力損失保護)付き SSD も問題なく搭載できる。

ネットワークと管理機能

標準で Broadcom BCM57416 による 10GBase-T x2 を搭載している。また、Supermicro ベースであるため、IPMI 専用 LAN ポートを通じた遠隔管理が可能だ。Supermicro Server Manager(SSM)や SuperDoctor 5 などのツール群により、OS 上から詳細なハードウェアステータスを監視できる点は、常駐サーバーとして運用する上で大きな安心材料だ。

結果と展望

HPCT WCE51-GP は、EPYC 9175F の性能をフルに引き出すための「土台」として、非の打ち所がない構成になっている。特に、12 チャネルメモリの安定動作と、強力な電源ユニット(750W - 1500W)の組み合わせは、長時間にわたる推論タスクにおいて不可欠だ。

今後は、この構成をベースに具体的な発注を行い、Ubuntu 24.04 環境下での Kimi-K2.5 等の 1T MoE モデルの実行環境を構築していく予定だ。自作でのリスクを避けつつ、最新の Turin アーキテクチャを最大限に活用できる環境が整いつつある。

スペック詳細

項目仕様
型番HPCT WCE51-GP
筐体フルタワー(244 x 567 x 523 mm)
CPUAMD EPYC 9175F (Turin)
RAM768GB DDR5-6400 ECC RDIMM(12 slots)
Net10GbE x2 + IPMI x1
I/OPCIe 5.0 x16 (x3), PCIe 5.0 x8 (x2), MCIO (PCIe 5.0 x8) x3
PSU750W - 1500W
OSLinux x86_64